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2014年8月25日月曜日

2足す2は5であると言う自由

 
 小説家アンソニー・バージェスは小説「1984年」について次のように述べた。
 
 本当の1984年はこんな風にはならない、と
 
 これを知った人は言った。
 
 この人は北朝鮮を見たら一体なんと言うのか??
 
 ∧∧
( ‥)なんて言うと思います?
 
  (‥ )具体的になんと言うかは
      知らんが
      あれだろ
      北の指導者たちは
      イングソック党の
      インナーパーティーたちに
      及びもつかない
      そういうことを
      言うのじゃないか?
 
 イングソック党:英国社会主義の略称で、オーウェルの小説「1984年」において世界を統治する3超大国のひとつ、オセアニアを支配する政党のこと。インナーパーティーはイングソック党の中枢メンバーでいわば貴族階級にあたる。エレベーターのあるマンションにすみ、ワインを飲み、召使いを抱えた人々だ。
 
 ∧∧
(‥ )ずいぶん慎ましい貴族階級も
 □‐  あったものですね
 
  (‥ )まともな娯楽もないし
      レジャー施設もない
      そもそも永久戦争続行中
      戦時体制の世界だ
      それを考えれば
      大変な贅沢だが
      現実世界の我々からすれば
      あまり嬉しくない
      程度だよね
 
 ついでに言うと、インナーパーティーたちの面々にはものっすごい量の仕事があるし、国民に餓死者が出ないように細心の注意を払っている激務の日々である。

 
 まあ、こういう話は抜きにして。
 
 1984年の世界における最大の特徴は独裁でも管理社会でもない。
 
 2足す2は5である
 
 この自由を行使する。それだけのために作り上げられた世界。それが1984年だ。
 
 ∧∧
( ‥)2足す2は4
    ではなくてね
 
  ( ‥)2足す2は5である
    ‐□ そう主張する自由は
      誰にでもあるが
      実際には誰にも無い
 
 2足す2は5である。そういう算術で作られた社会は崩壊してしまうだろうし、敵国によって征服されてしまうだろう。
 
 戦争がある限り、勝敗がある限り、生存競争と淘汰がある限り、2足す2は4でなければならぬ。
 
 ∧∧
(‥ )それをひっくり返すには
\‐   戦争を無力化すれば良い
 
  (‥ )核戦争のあまりの破壊力に
      恐怖した人々は
      最終戦争を断固として
      拒否した
      そして取り決めによって
      通常兵器による永久戦争を
      無限継続することに決めた
 
 この瞬間。地球を統べる3つの超大国オセアニア、ユーラシア、イースタシアは戦争と征服による恐怖から永遠に解き放たれた。
 
 後は、
 
 2足す2は4にもなるし5にもなる。
 
 そう叫ぶ自由を行使すれば良いだけだ。さすれば、人は認識のおもむくまま、好きなように現実を解釈して生きていくことができる。これが”真の自由”というものではないか? なんといっても現実から自由なのだから。
 
 そして、それこそが1984年。これがイングソック党が目指す世界。全知全能絶対無謬。人が神になれる世界だ。
 
 イングソック党が掲げる3つのスローガン

 War is Peace
 Freedom is Slavery
 Ignorance is Strength
 
 戦争は平和なり
 自由は隷属なり
 無知は力なり
 
 War is Peace まさしく戦争は平和なり。この世界において無限戦争は恒久平和と等価である。
 
 ∧∧
( ‥)そして今や世界は
    戦争と征服と淘汰の
    圧力から解き放たれた
 
  (‥ )現実から解き放たれた
      世界はついに
      自由を手に入れた
      かつてあったような
      現実と向き合って判断する
      自由ではない
      かつての自由だと?
      そんなものは現実に対する
      隷属なのだ
      世界は自由という隷属から
      ついに解放され
      永久に夢の世界で
      生きていく事が
      可能となった
 
 そして無知こそ力なり。知らないのであれば、知る必要のなかった苦しみも認識も知覚しないですむ。こんなこと誰でも知っているはずではなかったか? なぜイングソック党のスローガンに首をかしげるのか。ここに謳われていることは真理。

 
 さあ、諸君、こっちに来たまえ。ここに引きこもれば、君はもう怖い現実と目を合わせないですむんだ。現実世界の自由に良いことなんかあったかい? なんで嫌なことばかりなのだろうね? それはね、現実世界の自由が牢獄の自由でしかないからさ。そんな広いだけで義務だらけの牢獄からこっちへ来たまえ。ここは今の君から見れば小さい世界かもしれない。でも怖い人はもういない。敵はいないからね。皆、君や私たちと同じ人々だよ。だから君は守られる。君の魂はずっと自由になる。そうすればこの小さな世界が何よりも大きく広大になる。認識を変えたまえ。それだけで、たったそれだけのことで君は幸せになれるのだ。幸せはここにあるんだよ。だから、さあ、おいで。
 
 ∧∧
(‥ )...という視点からすれば
\‐  バージェスさんの言いたい事は
    明らかですよね
 
  (‥ )現実の世界は
      こんな良い世界じゃない
      逃げ場なんてない
      この世界は牢獄で
      出口も存在しない
      ここは地獄だ
      永久戦争も
      恒久平和もやってこない
      永久闘争が現実だ
      そういうこっちゃ
 
 そうとも。みんな、あれではまるでビッグブラザーみたいだ、とか、1984年のように管理されてるとか、自由がないとか、資本主義の監視社会だとか言っているが、それは単純に現実が持っている特性なのだ。道徳とは相互監視とリンチと制裁からなりたっているのだ。これは1984年ではない。ただの現実世界の普通の出来事で、現実世界と今の自分の境遇を呪っているだけだ。

 そして、そういう束縛をすべて破壊して引きこもった理想郷こそが1984年だということにお気づきでない。これでは本末転倒ではないか。
 
 君らの不安や怒りや指摘は、1984年とその管理社会に対する恐怖じゃない。
 
 そうではなく、現実世界における自分に課された義務と重圧に恐怖を感じているのだ。お前の言っていることは自分の人生に対するただの愚痴だ。見識でもなんでもない。
 
 そして残念。
 
 楽園など来やしない。世界は恐怖ゆえに最後まで競合し続けるだろう。すべての資源を食いつぶすまで突っ走るだろう。それが競合であり戦争であり、争いというものだ。
 
 1984年のような世界はこの地球では実現できない。実際、そんな世界があったら、僕らが何をするか明らかだろうに。
 
 ∧∧
( ‥)侵略して征服して
    奴隷にするよね
 
  (‥ )実際、1984年の世界は
      技術的に言えば
      時間が止まってしまった
      状態だからな
      核兵器の存在だけが
      問題になるけどね
      人的資源が無尽蔵に
      存在する
      比較的無力な平行世界だよ
 
 
 そんな世界が目の前にあったら、我々は容赦しないだろう。もちろんオセアニアもユーラシアもイースタシアも必死の抵抗を試みるだろうが、彼らが我らに勝てる道理はない。そもそもすぐ勝つ必要もない。外部が存在する、容赦ない征服を目論み、本当の戦争を行う技術的にすぐれた敵がいる。これだけで彼らの世界は前提が崩壊してしまう。イングソック党のスローガンは雲散霧消する。引きこもり共の楽園は木っ端みじんに粉砕される。
 
 そして私たちはオセアニアもユーラシアもイースタシアも征服して全住民を奴隷にするだろう。それが現実というものだ。私たちには低賃金労働者が必要なのだ。事実、それを発明しようと必死ではないか。だったら目の前のものを食い尽くすのは道理。彼らを餓死に追い込んで、我々はひさしぶりの豊かさを満喫出来る。
 
 そして、現代世界でも踏みにじられていない国は単に緩衝国家だったりするのである。理由があって存在するのであって、夢を見れるわけじゃない。彼らは敵国が存在しており、相手は自分に対して容赦しないという現実を見据えている。現実とはそういうもので、1984年は夢物語でしかない。きれいで美しい世界だが、ガラス細工のように繊細で、現実世界で生き抜く事などできないだろう。

 
 現実世界は、1984年のようなものではなく、もっとわくわくするような世界だ。最後に死ぬ権利を、皆が死に絶えた世界にたった一人で立つ権利を得る。それを争って最後の一人まで殺し合う。これこそが我らの未来。我らの現実。
 
 2足す2は5である。そう言い放つ自由を私たちは持っていないのだ。
 
 人は現実世界から自由にはなれない。すなわち、自由は隷属なり。これを忘れてはならぬ。

   
 これはhilihiliのhilihili: 要するに君は最終回が見たくないのだな?の続き
    
 
 

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