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2014年4月4日金曜日

みんなが我慢していたものをあえてやる

 
 なんでも世間的には映画マトリックスは1が良かったそうだ。
 
 ∧∧
(‥ )マトリックス1の主人公たちは
\‐  おかしな世の中を無条件に正す
    テロリストだよね
    少なくともそういう論評や
    そういう爽快感を
    たたえる評価は
    見た事あるよ
 
  (‥ )言い換えると、
      それこそを多くの
      観客が望んでいた
      そういうことだろうな
 
 この世界はうんざりだ。しかし、私たちだけがその不正の原因に気づいている。私たちが世直しをしなければならない。そのためにはこの世界を破壊することも辞さず。
 
 ∧∧
( ‥)テロリストの思考だと
 
  ( ‥)マルクス主義にかぶれたり
    ‐□ 学生運動に参加したり
      現実にもそういう事例がある
      まあ、誰しもあこがれる
      ことではあるのだろうな
 
 誰もが正義の味方というテロリストになりたい。そういう意味では、映画とは、いつもの自分よりもちょっと痛い自分を見るために見るものなのだ。映画の主人公は観客自身でもあるのだから。
 
 だが、マトリックスの3は違った
 
 ∧∧
(‥ )あれは、世直しどころか
\‐  人類を見捨てて
    主人公は機械の世界へ
    旅立つという話だったよね
 
  (‥ )狂ったプログラムから
      機械の世界を救う代わりに
      機械たちに対して
      人類との和平を
      要求するけど
      あれは、最後の義務という
      感じだよなあ
 
 そのためには彼女も切り捨てられる。
 
 機械たちからエネルギーを奪うためにかつて人類が散布したという永続的に地球を覆う黒雲。それを越えた時、始めて見る青空に「きれい」とつぶやく彼女と、まったく無言の主人公。反対に、機械都市に落下し、体を部品で貫かれ、暗い世界でもはや息も絶え絶えな彼女を前に、機械のエネルギーを見る事が出来る主人公は周囲を取り巻く光の奔流を前に「すごい」と感嘆する。
 
 ∧∧
( ‥)あなた、あの場面が
    大好きだよね
 
  ( ‥)お別れだよね
    ‐□ そしてやっと自由になれる
      あれほどの歓喜はない
 
 片や人間、片や人間じゃない何かになった者を象徴するかのような場面と別離。重荷が降りた瞬間だ。もうほとんど何も残っていない。主人公は最後の義務を果たせば何もかもから自由になれるのだ。
 
 ∧∧
( ‥)マトリックスはナウシカの
    ぱくりって言う人も
    いますけども
 
  ( ‥)それを考えると
      ナムリス皇帝の台詞
      人間はこの星では
      もう用済みなのだ
      という台詞を
      思い出しちゃうのよね
 
 ナウシカの原作は独ソ戦を舞台にしていると思えばいい。作中、軍事国家トルメキアは、より巨大な版図を持つドルク諸候国連合帝国へ侵略を開始した(ナウシカたちはトルメキアの属国として軍役があるので侵略者の手先でもある)。しかし、戦争をきっかけとして300年に一度の頻度で起こる蟲たちの大海嘯(だいかいしょう:大津波の意味)が発生。戦争は継続どころか戦線がどこなのか司令部がどこなのか、それすらも分からない大混乱状態に。腐海から溢れ出す蟲たちと彼らがまき散らす胞子、そしてそこから発芽した菌類に大地と国土が、兵士と人々が敵味方関係なく、次々に呑み込まれていく。
 
 ∧∧
(‥ )それを眺めながら
\‐  ナムリス皇帝が言う台詞
    もう人間はこの星に不要だ
 
  (‥ )本当は不要、必要の話では
      ないんだけどね
      でも、この世界には
      仕組みがあり調和があり
      すべては必要な部品である
      そういう世界観は...
      間違ってはいるが
      むしろ普通だからね
 
 そしてまた、自然の調和を乱す人間は、この地球では不必要な部品ではないのか? そういう懐疑的な意見もまた普通なんだろう。間違ってはいるが、普通の考えなのだ。
 
 ∧∧
( ‥)マトリックスの世界では
    人間が青空を奪った設定に
    なっていますよね
    そしてマトリックスから出ると
    現実の地球は暗く
    自然なんて残っておらず
    地上にあるのは機械の世界
    だけになっている
    人間はまったく不要でしかない
 
  ( ‥)ナウシカだとそれでも
    ‐□ ナウシカは人の世界に
      帰ってくるのだよな
      戦争と大海嘯と
      おびただしい人と蟲の死
      それを見て心が折れて
      腐海に魂が呑み込まれても
      それでもなお
      主人公は帰ってくる
 
 ∧∧
(‥ )でもネオさんは機械の世界の
\‐  美しさに圧倒され
    最後の義務を果たしながら
    機械のために昇天してしまう
 
  (‥ )うんざりしていても
      帰ってきたナウシカ
      義務を果たして昇天し
      機械の国へ旅立つネオ
      似ているはずなのに
      対照的だよねえ
      主人公の対称さは
      作者の対称さだよね
 
 ∧∧
( ‥)マトリックスの作者さんは
    人の世界が嫌で
    機械の世界に行きたいの
    ですかね?
 
  ( ‥)映画じゃ語られていないが
    ‐□ そもそもあの世界って
      人間が機械に対して
      戦争を仕掛けた世界
      なんだよな
 
 人類との共存を目指す機械たちに対して人類は核による先制攻撃を実行。これに怒った機械たちと人類の戦争が勃発。人類は機械が利用する太陽エネルギーを遮断するために黒雲で地球を覆い、総攻撃をしかける。しかし、当初は優勢だったものの、そこから押され、ついに機械による逆転を許し、敗北。機械たちは生き残った人類を切り刻んで調べるうちに人間がエネルギー源になることを発見し、電力源として利用、そしてマトリックスを作り上げる。
 
 ここにあるのは敵としての機械ではない。人間への断罪だ。
 
 ∧∧
(‥ )よくよく人間が嫌い
\‐   なんですかね?
 
 (‥ )むしろ好きで好きで
     たまらないとも言えるけどな
     そうでないと機械に人間が
     駆除される描写を延々と
     見せたりしないだろう
 
 ただ、これが仮に正しいとすると
 
 ∧∧
( ‥)人間嫌いな部分を
    小出しにしたら
    世の中の不正を正したい!
    という視聴者が持つ
    スーパーマン的な
    願望を刺激して
    大ヒットすると
 
  (‥ )だけど、
      本音を言っちまえばですね
      こんな世界にいるのが
      そもそも不愉快なんですよ
      スーパーマン願望?
      彼女? 救うべき人々?
      そんなの知らねえよ
      生きてる人間には
      もううんざりなのさ
      そうやって
      機械の世界へ昇天されると
      お客には、えー??? と
      ドン引かれる
      そういうことかもしれん
 
 
 それを考えると、腐海に呑み込まれて抜け殻になってしまったナウシカがそれでも戻ってきた、というのは、やはり正解だった、ということだろうか?
 
 あるいはこうも言える。もし何かと引き換えに、例えば大海嘯の停止と引き換えにナウシカがもはや戻ることもなく、引き上げる蟲を見て人々が歓喜し、朝焼けがやってくるようなエンディングだったら、それがマトリックスだってことになる。薄汚い人々の喜びと引き換えに、聖者は永久に救済されるのだ。
 
 ∧∧
(‥ )...でもさ、ナウシカさんも
\‐  本心はどうだったのですかね?
    戻らなくちゃいけないから
    戻ってきた
    主人公だから戻らざるを
    えなかった
    それだけかもしれませんよ?
 
  (‥ )まあ、そのだからあれだ
      ナムリス皇帝のだな
      もう俺たち不要でしょ?
      という厭世的な皮肉屋的な
      あのぶっちゃけた台詞を
      思い出してしまってな
 
 
 もう何もかもが手遅れで世界の救済は破綻しているが、それでも主人公自身はあくまでも現実世界に戻ってくる。
 
 しかし、その一方で悪役が、
 
 えー? こんな世界、意味ないでしょ〜〜〜 
 
 とあっさり言ってのける作品。
 
 責務は責務、本音は本音。
 
 これに対して、悪いのは人間だし、彼女も死んだわけだし、もう後は最後の義務を果たしたら旅立って良いよね、と主人公が”帰還せず”を実行してしまう作品。
 
 ∧∧
( ‥)そういう見解では
    マトリックス3は
    やっちゃったな〜〜〜って
    感じ?
 
  (‥ )みんなが我慢していたものを
      あえてやる
      物作りとしては危険だけど
      たまには良いんじゃね?
 
 危険だからこそ、3より1の方が良かった、と言われる結果になったが、それでもなお、それゆえなこその3なのだろう。
 
 
      
      
 

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