自己紹介

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2013年2月21日木曜日

認識という拘束具

 
 
 SFは衰退しました。
 
 ∧∧
( ‥)そうなの?
 
  ( ‥)...まあよく言われること
    –□ ではあるんだが、
       理屈の上ではおかしな
       話なんだよね。
 
 実際、理系書籍で売れるのは天文学や宇宙論の本であるし、近年の惑星発見ブームで異形の星とその環境の話はネットでも一般人と思われる人が話題にするところである。
 
 ∧∧
( ‥)一般の人ねえ
 
  (‥ )好奇心と驚きはあるけど
      知識や話題に間違いが
      あるんだ、
      あれは一般の人だろ
 
*例:地球より巨大でなおかつ水が存在しうるスーパーアース。こういう世界は地表面がすべて水に覆われていて、そのはるか下では水が液体から相転移し、高温の氷がマントルを形成しうる(そのさらに下に岩石のマントルがある)。しかし、ネットの話題で、氷は0度で溶けるはずだからこれはおかしいのでは? と疑義を出す人がいた(これは一般というよりは中途半端に知識がある人の例だけども、他の人はもっと素直にへーだった)。
 
 ∧∧
( ‥)まあ、人気や好奇心の
    対象でも、必ずしも
    冒険小説の舞台になるとは
    限りませんけどね
 
  ( ‥)深海生物は人気だけど
    –□ 海洋冒険SFってあまり
       ないからね。
 
 海は、見通しが効かない世界だ。そして強大な圧力に支配された世界でもある。あの圧迫感が原因かもしれない。海の話は大概、冷たく、閉ざされていて暗い。おおむねホラーとサスペンスの舞台である。
 
 
 ∧∧
( ‥)反対に、宇宙は闇の世界だけど
     爽快感はありますね
 
  (‥ )それこそ何百光年も先の
      星が見えるわけだからね
      見えればそこへいってみたい
      どんな世界なんだろう?
      そう思うのは当然だよね
 
 事実、そういう興味は世間にある。
 
 だがしかし、SFは衰退しているという。
 
 なにゆえか?
 
 ∧∧
( ‥)あなたはこれを認識と
    分類の問題だと考えると
 
  (‥ )SFが好きだって人と
      話をした経験からすると
      彼らなあ、なんか
      定義と理論体系を
      作りたがるのよ。
 
曰く、これがSFである
曰く、これがSFの定義である
曰く、定義から演繹するにこれがSFである

 ∧∧
(‥ )科学ごっこ、ですかね?
\–
 
  (‥ )実際には科学でもなんでも
      ないね、むしろ
      ギリシャ哲学ごっこだと
      思う。
 
 哲学とは知恵を愛するという意味だった。ただ、ギリシャ時代の哲学と知恵とは論理的に無矛盾であれば良いみたいな側面が強くて、今の目からすると考え事をしているおっさんの回りくどい人生訓とあまりたいして変わらない。彼らの数学的業績は確かに目を見張るものだが、これも自然科学には到底使えないレベルのものだった(これを改良するのもギリシャ人ではあるが、それはポリス全盛の時代が終わり、ヘレニズム諸王朝とローマによる征服の後の話である)。
 
 ∧∧
( ‥)SFを定義する。これは
    種問題みたいなもの
    ですかね
 
  (‥ )だろうね。定義できるけど
      その定義に何の意味が
      あるの? というね。
 
 *種問題:ここでは生物種をどう定義するのか? という問題。実は生物の種には何通りもの定義があって、どの定義が有効か? とか、どう定義することが有効か? とか、定義が出来るものなのか? とか、そもそも種が実在するのか? とか色々な議論が出てくる。ダーウィンが種は実在しないと考えていたのは有名な話。実際、ダーウィンの理論は種の定義自体を放棄することで成立した理論であると言って良い。種が存在する、この認識を破壊することがブレークスルーにつながった例。
 
 *そもそも生物は系統であって、系統は連続体だ。連続体を恣意的に切断したものが種なら、種の定義は恣意的なものに他ならない。恣意的な定義はなんらかの便宜で作られたもので、結局は人為的なものであり、客観的な実在とかそういうものではない。
 
 
 ∧∧
(‥ )SFの定義はSFに何を
□–   もたらすのでしょうね?
 
  (‥ )定義に基づき
      創作物Aは
      SFではない。
      いわば自ら拘束具を
      着たわけだよ。
      この時点で自動的に
      範囲がせばまるよね。
      ジャンルの衰亡は
      必然だろう。
 
 実際、漫画でも映画でもラノベでも宇宙を舞台にしたり、未来や超絶的な技術、あるいはもしもを大前提にした物語や架空世界の冒険物語は聞けば知ればいくらでもあるものだ。
 
 ∧∧
( ‥)この場合は、ジャンルが
    衰亡したというよりは
    認識がせばまった、
    そういうことですか
 
  ( ‥)定義に基づきAは
      Xではない。
      この言明自体は
      無矛盾だけども
      意味はない。
 
 無意味で根拠のない定義をふりかざして認識の枠をせばめれば、そりゃあ破滅的だ。
 
 例:人間と言えるのは毎日三食ベーグルを食べるものだけだ。人類は認識的な意味において激減する。
 
 ∧∧
(‥ )科学法則や技術を理路整然と
\–   考察してお話の中軸に
     すえたものがSFだ、
     と主張する気持ちも
     分からなくもないの
     ですけどね
 
  (‥ )だがその定義の根拠、
      それ自体が認識でしか
      ないわけさ。
      科学法則や技術と
      言いつつ、自分の認識の
      話しかしていない。
      異種知的生物の話をする
      くせに、サルとしての
      認識しか述べていない。
      ジャンルの衰亡は
      その報いだよ。

 
 そういえば、先の話をしたSFマニアな人は進化論が種の定義を破壊することで成立したことを全然理解していなかった。拘束具を自ら着た人間の行き着いた先がこれである。
 
 
 
 
 

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